今日からマガディ湖に行き、3日間原野でキャンプをしながら、空撮の予定。
ナイロビを午前10時に出発。
それにしてもすごい荷物である。
原野でキャンプをするのでテントや食料はもちろん水から椅子など荷物満載である。
キャンプは僕と妻、アレックスと彼のスタッフのジョゼフ(マサイ族)、
僕が使っている旅行会社の担当であり、僕たち夫婦の共通の友人である
古賀さくらさん(僕の妻がはじめてのキャンプで心配だと言うので好意で参加してくれた)、他にこの会社のスタッフ1人とドライバーのブラウンの計7人。
荷物が多く車が重いためか進みは遅い。
予想より時間がかかっている。
マガディ地方は高度700mくらいで、ナイロビより1000mほど低く、
近づくに従ってむっとして暑くなってきた。
昼過ぎにマガディ湖に到着した。
ここは大地溝帯にあるソーダ湖。
大きなソーダ工場を過ぎ、原野に入っていく。
アレックスとの待ち合わせ場所がどうもはっきりしない。
が、その時爆音とともにアレックスが車の真上を飛んでいった。
アレックスらしい出迎えかただ。
場所は間違えていないようだ。
しばらく行くとアレックスの飛行機があるのが見えた。
やっと到着した。
しかし、とにかくここは暑くて乾燥している。
ここに来る前にキャンプ場の案内があったが、どうもここは決められた
キャンプ場ではないようだ。
アレックスは、キャンプ場のように人がいる所がきらいで、大好きな原野に
いつもキャンプを設営しているらしい。
きちんと滑走路も出来ている(もちろん砂利道だが)。
あたりはマサイ族が家畜を連れて歩いているので、糞だらけ。
困るのは草の繊維が団子状にからまった塊がいたる所にあって、
それが服や靴下にくっついてとれない。
その時は気付かなかったが、後でよく考えるとこれは家畜の糞が乾燥して
繊維分だけになったもののようだ。
いやはや、たいへんな所だ。
それにしても暑くてのどがカラカラである。
木陰にテーブルを出して昼食のサンドイッチを作って食べる。
冷たい飲み物が喉に染みわたる。
スタッフがテントを設営している間に僕はマガディ湖での第1回目の
フライトだ。
午後4時半頃に離陸。
飛行機に乗ると風が気持ち良い。
マガディ湖の反対側にはグルマニ・エスカープメントという2000m以上の急峻な絶壁があり、その手前は雨が降るために森が広がっているが、キャンプ地周辺からマガディ湖まではとても乾燥していて、褐色の草地と砂地、
そして低潅木地帯が続いている。
所々に大きな蟻塚があり不思議な景観を呈している。
マガディ湖まではウルトラライトプレインで約7分。
一端高度を上げた飛行機はマガディ湖の手前で高度を下げ、湖の手前にある
岡を低空で越えていく。
越えた瞬間、前方には大きく視界が広がり、眼下にマガディ湖が見えてくる。
それがアレックスの演出であることはわかっているが、素晴らしい景観に
思わず「ウァ―」と喚声があがってしまう。
後ろでもアレックスが「アフリカは素晴らしい」と叫んでいる(彼は少し日本語をしゃべるのだ)。
遠くにフラミンゴが点状に見えていくる。
飛行機は高度を下げずにフラミンゴに近づいていく。
その時フラミンゴの一群が飛び立った。
飛行機はその群れに接近して行く。
もちろん風向きを考え、フラミンゴをおびえさせないように慎重に近づいていく。
フラミンゴは右にいったり、左にいったり、旋回したりと飛ぶ方向は一定ではないが、その方向に合わせてアレックスはうまく寄って行く。
ウルトラライトプレインだからこそ、アレックスだから出来る芸当だ。
一瞬、ウルトラライトプレインはフラミンゴの真上を平行して飛ぶ。
眼下のフラミンゴ群れはみなピンクの羽を広げている。
地上からは決して見ることのできないシーンである。
僕のカメラのファインダーの一面がフラミンゴでうまっていく!
「ファンタスティック」とか「エクサイティング」とか知らないうちに叫んでしまう。
後ろでもアレックスが「ヒャホー、グレイト!」と叫んでいる(彼はとにかく感性豊かで感激屋なのだ)。
今僕はフラミンゴと一緒にアフリカの空を飛んでいる。
僕の夢の一つがかなった瞬間であった。
何度もフラミンゴと平行して飛び、夢のようなフライトは終了した。
夕方6時にキャンプに戻ったが、とにかく夢のような気分だった。
アレックスは近くの川に水浴びに行くとのこと。
水は泥水だそうだ。
今日は疲れたので、明日僕も水浴びに挑戦する事にしよう。
夕食は、さくらさんたちがカレーを作ってくれた。
ケニア食にあきあきしていた僕にはたまらない美味だった。
もうあたりはまっくらで、ランプの光の中での夕食は雰囲気がある。
初めて経験する原野の夜が始まる。
昼間は暑いが夜は適度に風が吹き,気持ちが良い。
アレックスといろいろな話しをする。
彼とは価値観が非常に近いと思う。
彼が全力で僕に見せようとしてくれるのがわかる。
彼の話しでは、自分の要求ばかり押しつけるカメラマンが多いようだが、
僕はそんなことはしたくない。
撮影にはこの信頼関係が大切なのだ。
自然のために2人が何をしたいかが大切で、その想いが一致していれば、
必ずや自然はその深遠な美しさで答えてくれることを確信していた。
きっと明日以降に何かがおこる、そんな気がした。
それはいつなのだろうか?
そんな期待を胸に眠りにつくことにする。
満天の星を期待していたが、今日は曇りで見れそうにない。
時々遠くでハイエナの鳴き声が聞こえる。
「アフリカらしい夜だ」と思っているうちにあっという間に眠りについた。