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サファリ日記 空撮編 8月31日

今日はマガディ湖2日目。

朝6時半起床。

早朝は気持ちが良い気温。しかし、7時頃にはもう暑くなり始める。

今日はシートを木に貼り付け影を作ってその下で生活することにしよう。

直射日光を浴びているとあっというまに干からびてしまう。

午前8時前に離陸。

飛行機が飛び立つと定期的にアレックスは「OK?」と僕の状態を

聞いてくれる。

こんな砂利道の飛行場でも、離陸も着陸もジャンボジェットより安定感が

ある。

飛びたつやいなや、完全に鳥になった気分である。

鳥が空の上で恐怖を感じないのと同じように僕もただ気持ちが良いだけだ。

普段は高いところが決して得意ではないが不思議な感覚だ。

今日の狙いはもちろんフラミンゴ。

アレックスいわく、「朝のほうが良い」とのこと。

期待大である。

昨日はフラミンゴだけでなくマガディ湖の景観を見ることを主体にしたが、

今日はフラミンゴの撮影に集中したいことを告げる。

さあ、マガディ湖に到着である。

フラミンゴは湖の所々に小さな群れを作って餌の藻をくちばしですくうようにして食べている。

今はそれほど数は多くない。

ウルトラライトプレインが近づいても、距離が離れていればほとんどが飛行機に気付かずに餌を食べている。

さらに近づくと時に一部のフラミンゴは走りながら逃げ、一部は少し飛んで場所を変えるが、逃げ惑うようなことはない。

というか、そのような近寄りかたをしないのだ。

アレックスは動物たちを驚かせるような近づき方を嫌う。

僕も要求はしない。

彼が近づくのはフラミンゴの飛び立った群れだけだ。

その飛翔に合わせて少しづつ近づいていく。

今日は湖の広い範囲を飛び、飛び立つフラミンゴを待つ。

群れが飛び立つやいなや、ウルトラライトプレインは右に左にターンを繰り返しながら接近して行く。

距離を少しずつつめながら、方向を合わせていく。そして一瞬群れは飛行機と平行に飛んだり、飛行機の真下で交差する。

この時がチャンスだ。

ファインダーの中をフラミンゴが占めていく。

レンズをズームアップすると一面がフラミンゴのピンク色に染まっていく。

下の湖面は青黒く、コントラストが美しい。

思わず「ビューティフル」と叫んで、連写してしまう。

後ろでアレックスも大喜びしている。

時々彼のカメラがフォーカスが合わずに(彼は写真家でもあり、操縦しながら時々撮影しているが、カメラが古くフォーカシングスピードが遅かったり合わないこともよくあるらしい)「アチャー」とか「ウヒャー」とか叫んでいる。

しかし、チャンスは短時間。

その群れが離れてしまえばおしまいである。

深追いは絶対にしない。

9時半頃キャンプに戻る。

すぐにアレックスは妻を乗せて飛ぶと言う。

彼女はキャンプ初日に、暑く乾いたここでの生活に恐怖感をつのらせていた。

夜も異常に怖がっていた。

その気持ちを和らげようと彼は考えてくれたのである。

そして離陸。帰ってきた彼女は別人に変わっていた。

それ以後、彼女はこの生活を「良い経験だった」とさかんに言うまでに

変わっていた。

アレックスが良く言う言葉がある。

それは「Do not think. Feel.」という言葉。

まさに彼女は考えすぎていた。

恐怖は自分の頭が作り出すもの。

マガディ湖の上を飛び、フラミンゴとともに飛翔し、自然の大きさと美しさを体感した時に、今までの考えがいかに小さく、つまらないことにこだわっていたのかを瞬時に感じとったようだ。

それ以後の彼女は別人のように変わったのである。

帰ってきた時はもう昼前。

朝昼兼用の食事としてうどんをゆでて食べる。

やはり日本食は偉大だ。

その後、アレックスは水浴びに行くという。

僕とさくらさんも行く事にする。

さくらさんはアフリカ生活5年目。

見た目のかわいらしさからは考えられないほどたくましい。

会うたびに成長しているのがわかる、すばらしい人だ。

3人で10分ほど歩いて川に向かう。

水は真茶色。

流れがあり、上流に民家が少ないので、「病気は大丈夫」とアレックスは

言う。

野生児の彼は平気で泳いでいるが、僕は身体や頭を洗うだけにした。

(まあ普通の人はそんなこともしなだろうが)

たしかにアレックスの言う事は根拠があり、信頼がおけるが、野生児の彼と

都会生活の長い僕では同じ身体ではないことを自覚しなければならない。

一にも二にも撮影が大事、無理はしないことだ。

僕らが水浴びしている間、マサイの家畜がさかんに水を飲みにやってくる。

子ども達も同じ泥水を飲んでいる。

「ンーン、たくましい」とうなってしまった。

午後4時から空撮。

今回は近くにあるナトロン湖に行く。

ナトロン湖はタンザニアとの国境にあり,ほとんどがタンザニアに位置している。景観的にもタンザニア側が良く、フラミンゴの数もそちらに多いとの話であった。

しかし,なかなか行く機会はない所だから1度は見てみたいと思い、行くことにした。

ナトロン湖はキャンプ地からウルトラライトプレインで約30分の所。

アレックスもあまり期待していなかったようで、「はじめにマガディ湖で

フラミンゴを撮ってから行こう」なんて言っていた。

10分ほどマガディ湖でフラミンゴの撮影をした後,ナトロン湖に向かう。

乾燥地帯の上を飛ぶうちに少し緑が多くなってきた。ナトロン湖に注ぐエイワソ・ンジロ川のためだ。

そのうち遠くにナトロン湖が見えてきた。

近づくとソーダ湖がおりなす独特の景観になってきた。

湖に到着して目を見張った。

ふだんはあまりいないはずのフラミンゴが群でいる。それも大群である。

いくつもの群が湖上を飛び交っている。

ウルトラライトプレインは急旋回して群に近づいて行く。

右に旋回する群、左に旋回する群,それらが交錯していく。

2人とも興奮して「ワー」とか「ヒャホー」とか叫んでいる。

機体は右に左にめまぐるしく旋回していく。

フラミンゴの群が機体と平行して飛んでは離れていき,また別の群が眼下に見えてくる。

あまりの数の多さに頭がくらくらしてくる。

しかし,写真は難しい。

一瞬交差した時に瞬時に撮らなければならない。

ピントが黒い湖面にあっているのか,フラミンゴにあっているのかわからなってくる。

望遠でアップ気味に撮りたいが、ブレが怖くて撮れない。

ただ無我夢中で押しているだけの状態である。

夢のような時間はアットいう間に過ぎ去っていった。

急速に光が弱くなってきた。

機は高度を上げ,帰還の体勢に入った。

その時に、はるか前方のソーダの上(ここは水がない)にピンクの点が無数に見えてきた。

「もしや営巣地帯?」と思ったが,近づくにつれてそれが明確になってきた。

初めて見る、数千の営巣地帯である。

ソーダの褐色のプレートの境に沿って無数のピンクの点が見える。

その1点1点が、土を盛って作った巣の中にある卵を暖めている親鳥だ。

そのような巣が数千あるのだ。

ソーダプレートの褐色や黒の周囲をピンクの点が連なった線が囲んでいる。

まるで宝石のような美しさだ。

しかし,近づくのは厳禁。

フラミンゴにストレスを与えてはならない。

巣を放棄してしまう可能性があるからだ。

一応遠くから写真は撮ったが、それ以上の接近はあきらめた。

飛行機も低速では飛べないような条件なので、写真は駄目だろう。

しかし,すごいものを見た。

アレックスもケニアで飛び続けて15年になるが、「こんなすごいのは初めてだ」と言っていた。

興奮したまま2人はキャンプ地に戻った。

戻ったとき,アレックスは集中して飛び続けたのでフラフラの状態だった。

黒い湖面にフラミンゴが乱舞していた時,まったくどの位の高度を飛んでいるかわからなくなったそうで、すごく神経を使ったようだ。

それにしても今回最高のフライトだった。

やはり、自然は裏切らない。