昔はかかり付けの医者がいた。
その医者は、病気だけではなく、人間全体として、もちろんその人間が置かれている環境まで考えて治療していた。
今ほど医学が発達していなくても、その医者にかかれば安心感が与えられ、病気は治ったものだった。
こういう医者を名医といった。
安心感が与えられただけで、治癒力は増していく。
実際、外来に来る患者の80%は自然治癒すると言われている。
大病院で高度先進医療を受けなければ助からない人もいるだろうが、そのような例はむしろ少なく、大多数が大きな病院に行く必要などないのだ。
医学の進歩は医者に膨大な知識を求めるようになった。
膨大な知識は、医者の感性を鈍らせ、知恵を消していった。
市井から名医がいなくなった。
また、患者は自宅で死ねなくなり、ほとんどが病院でたくさんの管につながれて死んでいく。
こんな時代に、その流れに抵抗するかのように頑張っている町医者がいる。
慈恵医大の同級生・藤井康広君だ。
彼は福井県の三国町で開業しているが、並みの開業医ではない。
在宅ホスピスに取り組み、末期患者の「最後の生の輝き」を患者とその家族とともに笑い、ともに泣きながら、クリエイトしている。
また、老人ホームなどの経営もしているが、そこに芸術療法を取り入れ、老人達に生きがいを与えるために日夜頭をひねっている。
彼の医療そのものが芸術だと思う。
彼のような医者が沢山出てきたら日本の医療が変わるだろう。
今、日本の医療を変えるのは、高度先進医療ではなく、彼のような名医を日本中に増やすことだと思っている。
その彼が「よみがえれ! 町医者」という本を出した。
(日本評論社 1600円)
ぜひ読んで欲しい。