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風邪より怖い風邪薬

今日の外来に初診で来た女性の話。

入ってくるなり、「便が肛門のそばまで来ているのに出ません。早くなんとかしてください」と鬼気せまる様子で訴えてきた。

昨日まで普通に便は出ていたらしく、便秘症ではない。

「今まで便が出ている人なら、肛門のそばまで来ていたら必ず出るはずです。まだ肛門のそばまでおりてきていないのでしょう。1日出ないからといって大騒ぎしないように」と答えるが、納得しない。

「とにかくなんとかしてくれ」と繰り返し言う。

すぐに薬を出そうとしない僕に不満が一杯という顔だ。

便のことに神経質になっている人は、1日出ないとよく大騒ぎをする。

そういった人をよくみるのであるが、この人の場合、腹部膨満もあり、少し違うような気がした。

「お小水はどうですか」という問いが決め手となった。

今朝から尿も非常に出にくいと言う。

これは一大事だ。

便が1日出なくてもなんてことはないが、尿が出なければたいへんなことだ。

「いったい何が起きているのだろうか」と考えるのであるが、すぐには答えがみつからない。

今日の外来はすごく混んでいてカルテが山のように積まれている。

浣腸をして時間を稼ごうか、などと良からぬことを一瞬考えたが、「いや、まてよ」と思い留まった。

こういった時、僕は極力薬を出さないようにしている。

安易な対症療法は、患者からも医者からも症状の原因を学ぶ機会を失わせるからだ。(症状のほとんどが自然に消えていくので、対症療法ばかりの医療でもなんとか成り立っているのであるが、これが現代医療の大きな問題点だと思っている)

この患者さんの場合、突然症状が出てきたので、まず外的要因が加わったことを疑うべきであろう。

そこで、お腹の痛み止めなど、副作用によって腸の動きが止まり、排尿障害をきたす薬が投与されたのではと考えた。

が、そういった薬は出されていないと言う。

「他に何か最近服用し始めた薬は?」と聞くと、たいした症状もないのに2日前から風邪薬を服用しているとのこと。

「それだ!」

総合感冒薬の中には分泌を抑制する抗コリン作用を有する物質が入っていて、稀ではあるが、排尿障害や腸の動きを止める原因になる。

こういった副作用は稀にしかおこらないので、医者も知らない人が多いのだ。

気付かずに服用し続けていたら、尿閉(尿が出なくなる)や麻痺性イレウス(ガスや便が出なくなる)になっていたかもしれない。

「昨日服用したのは何時ですか」と聞くと、「夜の12時頃」とのこと。

1日2回の薬なのでそろそろ切れる時間だ。

少し待って、またトイレに行くように指示した。

その女性を外でしばらく待たせておいて、次からの患者さんを診ていた。

15分ほどしたら、突然「出ました」と言いながら、外来に入ろうとしている他の患者さんを押しのけてその人は入ってきた。

よっぽど嬉しかったのだろう。

感冒薬は、胃や十二指腸潰瘍、時に腎不全や肝不全などの怖い副作用がある。

服用しても大丈夫とわかっている“のみ慣れた薬”を短期間服用するのはまだ良いが、新しい薬をたいした症状もないのに安易にのむことはとても危険なことだ。

しかし、日本人には、薬に依存している人がすごく多い。

症状=悪いもの、症状=医者にいって薬をもらうこと、という短絡的思考の人が多い。

これを改革しなければならないと思っている。