十人十色、神経質な人もいればおおらかな人もいる。
この性格を決めているのは脳(ここでは第一の脳と書くことにしよう)である。
ところが、腸にも脳があることがわかってきた。
これは、第二の脳と言われている。
第二の脳が過敏な人は、過敏性腸症候群と診断される。
下痢か便秘(過敏性腸症候群は便秘、下痢の原因の一部にすぎない)、あるいは両方の症状を繰り返すのだが、問題となるのはどちらかというと下痢の方だ。
とくに朝の下痢がひどくて通勤ができなくなる人がいる。
不思議と昼からは下痢がなくなり、検査しても異常がでないので、あまり重要視されず、適当な薬が出るだけのことが多い。
ただ、その薬の多くがあまり効かない(時には著効を示すことがあるが、その頻度は少ない)ので、患者さんはそのうち受診しなくなる。
こういったことで悩んでいる人はけっこういる。
とくに女性の場合、深刻に悩んでいる人を時にみる。
今日も神経科に10年受診して投薬を受けているが、ほとんど改善しないと来た女性がいた。
「腸の脳、すなわち第二の脳が過敏である」という体質的の問題であるから、性格としての神経質が一朝一夕には治せないと同じように、腸の場合もなかなか治すのは難しい。が、食事の注意、ストレス対策、薬物療法を組み合わせれば、かなり改善はすると話した。
ところが、「食事では何も変わらないし、ストレス対策なんて言っても、仕事はやめられないので、そんなことは出来ない」と否定的なことばかり言う。
「否定的なことばかり言わずに、諦めないで少しずつ挑戦していくしかない」と話すのだが、否定的と言われたのが悔しいと泣き出す始末。
「体質の問題だから、画期的な薬が出来るまでは、完全に症状が出なくすることは難しい。ただ否定ばかりしていると、かえって悪くなるので、自分の一部だと思って自分の腸を肯定的に認めるように」と言うと(実際、認めると随分楽になり、症状が軽減することがある)、「それでは治らないのですか」とまた泣く。
第二の脳が過敏でも、第一の脳が神経質でなければ、あまり問題にならないのだが、この人のようにどちらも過敏だと治療が難しい。
お互いの過敏さが影響しあって悪循環に入るからだ。
対応の仕方を何度も繰り返して説明していたら、50分近くかかってしまった。(待たした患者さん、ゴメンなさい・・・・)
「今アメリカでは、第二の脳の過敏症に効く薬を開発中だから、希望を持ちなさい」と話したのだが、かりにそのような薬が出来たとしても、食事の注意、ストレス対策といった基本をおこたっていたら改善はしないだろう。
そのことをわかってほしかったのだが・・・・・。
ただし、こういった話しは、具体性に欠け、概念的になってしまうので、初診の患者さんには分かりにくいのは事実である。
以前、熱心に時間をかけて話した時、「先生の話しは概念的過ぎて、わからない」と言われたことがあった。
しかし、一人一人対処法が違うので、すぐには具体的な話しはできないのである。
本人自らが自分自身の心や身体、そしてその問題点に気付くようにならなければ、他人の僕らにもわからないのである。
医者はあくまでもヒントを与えるに過ぎない。
とにかく、頼りすぎないで、自分で気付くことが大切なのだ。
ただそういった習慣を身につけてこなかった人には雲をつかむような話しなのだろう。
しかし、「概念的すぎる」と言っていた患者さんも、最近では僕の言ったことを理解し、自分自身について様々な側面を発見しつつある。
焦ってはならない。
自分を知るというプロセスには時間がかかるのである。
それにしても、「臨床は難しい・・・・・」といつも思うのだ。