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説明と同意

近医からの紹介で80歳の女性が大腸鏡の予約にやってきた。

症状はないが、便の潜血反応が陽性だったらしい。

一見元気そうだが、話を聞くと多発性脳梗塞と心臓に問題があるらしい。

カルテをみると3年前に当院で大腸鏡を受けていた。

その時は何も異常がなく、80歳で自覚症状がないので、「本当に検査をやる必要があるのだろうか?」と思った。 

カルテを見返していくと、3年前の検査の時にはベテランのドクターが施行したにも関わらず、腸の伸展により脈拍が40くらいまで下がっていた。

ベースに梗塞がある患者さんだと、血圧がさがったり脈拍数が低下しすぎると、再発や悪化の可能性があるので、検査はかなりのリスクであることは明白だった。

が、検査をしない場合にはきちんと説明して理解してもらわなければならない。

そこで、「検査はできなくはないが、リスクを伴う。きちんと家族にも相談して決めてほしい」と話したのが数日前のこと。

そこで今日家族(娘)と再受診となったわけである。

家族は物分りの良い人だった。

しかし、近医で検査をやるように言われていたので、当然検査は必要だと思っていた。

リスクの高さを話したところ、「よくわかりました。家族全員で相談したい」ということになり、家族で話し合って再々受診することになった。

よくよく話を聞くと、患者さんは、「自分は80歳まで生かしてもらったからもう十分。たいへんな検査は受けたくないし、自然のままがよい」と思っていたが、みなに押し切られて検査の予約にやってきたようだ。

彼女のご主人は先生(近医)が検査を薦めているから受けるべきだとの考えていた。

娘さんもはじめは同様に考えていた。

紹介医も検査に異常がでたので、さらに精密検査と思うのは当然であろう。

だれの考えも間違っていない。

が、このまますんなり検査がおこなわれていたら、可能性は少ないかもしれないが、事故がおきていたかもしれない。

いったい正解は検査をするべきなのか、やめるべきなのか。

僕は後者だと思うが、正解は誰にもわからない。

大切なのは検査をするしないよりも、きちんと説明し、納得してもらい、お互いが同意のうえで判断することなのだ。

しかし、この説明で30分はかかってしまった。

たまたま今日は患者さんが少なかったが、混んでいるときにはこのように時間をとることは現実的にできない。

「説明と同意」とよく安直に言われているが、それがきちんとできる環境が日本ではまだ整備されていないのと思う。