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撤退する勇気

昨日は一日外来であったが、患者さんの多さに疲れ果て、おまけに終了後休む間もなく次の仕事に終われ、それが終わった直後からホスピスタウンという雑誌のインタビューが2時間。

いったい何時間しゃべったのだろうか。

帰ると一気に疲れが出て、珍しく10時に寝てしまった。

よく寝たおかげで今日の体調は良かった。

体力気力が充実し、順調に検査をこなしていたのだが、午後の一番最後の大腸鏡検査の患者さんがきわめて腸の癒着の強い方だった。

癒着が強いために挿入時に強い痛みを訴えていたので、途中で危険を感じ、大腸鏡検査は中止し、挿入できていない奥の部分を見るために注腸検査(バリウム検査)に変更することにした。

このようなことは稀にしかないのだが、無理をして挿入しようとすると穿孔(腸に穴があく)を起こすことがあるので注意しなければならない。

万全をつくしているのだから、この選択で間違いはないはずだ。

僕自身この松島クリニックに来て、6000例ほどの大腸鏡を施行しているが、穿孔は一度も起こしていない(全国平均は3000分の1くらい)。

大きな事故が起きていないのは、経験もさることながら、「引くことも勇気なのだ」と思って、実践しているからだろう。

しかし、この患者さんはやっている時は「痛いからやめて欲しい」と言いながら、やめた後になってバリウムは嫌だ、カメラにしてくれとわがままを言う。

それも泣きながら・・・・・・。

おまけに、この患者さんは院長宛の紹介患者で、本来なら院長がするはずだったが、たまたま院長が出来なくなったので僕が施行することになったのだ。

しかし、無理なものは無理であり、それは技術不足ではなく、癒着でやむをえないのだと思いつつも、「うまくいきませんでしたではすまない」とも思った。

こういった状況であっても穿孔を起こせば、責任をとるのは僕であるから「中止にしたい」という思いと、患者さんの希望が強く、また保身的になるのが嫌なので「もう一度挑戦したい」という思いが交錯した。

迷った末、もう一度だけ挑戦することにした。

ただし、「痛み止めを増やして、もう一度挑戦しますが、だめだったらバリウムですよ」と念を押しながら・・・・・。

患者さんも痛みをこらえ、僕も極度の緊張状態のなか、鎮痛剤を追加して、意識を集中して再挑戦が始まった。

そして今度は、多少無理はしたが、上手く挿入出来た・・・・・・・。

おまけに奥にあったポリープが見つかり、患者さんには感謝されたが、今、「本当にこれで良かったのだろうか」と思う。

結果オーライだったが、もし穿孔していたら間違った判断をしたことになる。

撤退する勇気がなかっただけではないだろうか。

今も結論が出せない。

よく新聞で医療事故が問題になっている。

たしかにニュースになっているのは、「論外!」と思えるようなことばかりだが、最善を尽くしても医療行為には必ず合併症がついてまわることを患者はもっと知るべきだと思う。

たとえ採血ひとつをとっても、手に麻痺がくることがある。

風邪薬をのんで、死んだ人を何人か見ている。

大腸鏡はリスクの高い検査である。

あまり怖がり過ぎるのも問題だが、あまりに安易に医療を受けようとするのも問題だ。

すべてに必要なことはバランス感覚なのだ。

しかしそれがとても難しい。